今のniconico、昔のニコニコ ~動画投稿者でも視聴者でもない視点から~

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本記事はブロマガに投稿した記事を移行したものです。
体裁は整えましたが、内容については手を加えずにそのままにしています。
元のブロマガについた当時のコメントも一緒に移しています。


ニコニコ動画が10周年を迎えたということで、「ニコニコ動画はどういうサイトであるのか?」を、送り手(投稿者、配信者)でも受け手(視聴者)でもない『参加者』というニコニコ動画において特有のユーザーの視点から考えていきます。

文中で度々触れていますが川上会長の発言は以下の記事を参考にしています。

「ニコ厨の幸せはリア充に見られること」ドワンゴ川上量生会長
http://ascii.jp/elem/000/001/076/1076171/index-3.html
  • ニコニコ”動画”は動画サイトではない

名前から時々勘違いされますが、ニコニコ動画はいわゆる「動画視聴サイト」ではありません。
川上会長の記事でも本人が言ってますが、ニコニコ動画は動画サイトではなくコミュニティサイトとして企画されています。これは(仮)時代にyoutubeの動画にコメントを書き込むのが主な機能で動画投稿ができなかったということからも明らかです
つまりニコニコ動画は動画を見ることが主な目的ではなく動画を媒介としてユーザー間でコミュニケーションをとることが主な目的のSNSサイトです。あえて動画という言葉を使えば「動画共有サイト」ということになるでしょうか。

コミュニティサイトであるニコニコ動画と一般的な動画サイトとでは動画の位置づけが大きく異なります。一般的な動画サイトでは動画がコンテンツ(消費物)として取り扱われるのに対し、ニコニコ動画では動画はコミュニケーションの場(共有物)として扱われます。この極端な例が「キリ番祭」や「年越し祭」のような現象です。動画として例を挙げるなら過去なら組曲『ニコニコ動画』、最近ならごちうさ一羽が代表的でしょうか。
そしてそのような場で現れるのが、送り手(投稿者、配信者)でも受け手(視聴者)でもない『参加者』という第3のアクターです。『参加者』はコメントやタグなどで動画という場にはたらきかけを行います。ニコニコ動画はこの『参加者』としての楽しみを提供し、それが評価されることで爆発的にユーザー数を増やしていきました

ニコニコ動画の運営は昔から何かをするたびに常に批判をされてきましたが、少なくとも初期の運営の開発チームもそういったサイトのコンセプトは重々承知しており、新たに追加される機能の多くが『参加者』にスポットを当てたものでした。代表的なものはタグ や市場、大百科、広告ですが、そのどれもが動画という場に対して何かしらの介入を試みる機能であり、『参加者』になる入口を広げるのに一役買っています。

そして、ニコニコ動画はコミュニケーションの場の最小単位であった動画をランキングによってつなぎ合わせることでニコニコ動画そのものを一種の大きなコミュニティの場にすることに成功しました。
コミュニティサイトであったニコニコではおもしろい動画がランキングにあがるのではなく、ランキングにあがった動画がおもしろくなるサイトでした。そのため初期になると顕著ですがニコニコではランキングというものは非常に重要視されます(予想スレ、ニコランの存在からもこれがよくわかります)。
ランキングによって同じような属性を持つユーザーを産み出すことで、ニコニコ動画は優良なコミュニケーションの場になりました。

しかしコミュニティの常として、同種のユーザーが集まれば集まるほど質は上がるが、内輪の雰囲気が醸成されて一見さんお断りになってしまいがちです。ニコニコ動画の優れたところのひとつは匿名性による動画に参加することの心的負担の緩和とコメントや大百科による情報の補完によってこのジレンマを打ち破ったことです。同種のユーザーを集めるのではなく、集まったユーザーを同種のものに変えてしまうような力がニコニコ動画にあったわけです。
『参加者』になることの容易さと、『参加者』になることでの帰属意識の喚起によって、ニコニコ動画は熱狂的な愛用者である「ニコ厨」を大量に排出することになりました。少なくとも9年間も飽きずに利用を続けている私のようなユーザーを産み出すほど魅力的な空間であったわけです。

よくニコニコ動画は動画上にコメントが表示できるだけの動画視聴サイトと短絡的に考えられてる節がありますが、それはとんでもありません。コメント機能はニコニコ動画の一つの側面をあらわしたものにすぎず、その最大の特徴は、動画を場の中心 として、コンテンツが無数のユーザーによって無限に広がっていくことです。
いや、だったというほうが正確かもしれません。タイトルにあるようにニコニコ動画はだんだんとその本質が変わっていきます。

 

  • ニコニコの最終目標は最初からコミュニティサイトではなくメディアになること

前節で述べたようにニコニコはコミュニティサイトとして急速な発展を遂げたわけですが、しかしこれはおそらく当初の運営の目論見の予想を上回るものでした。
というのも川上会長本人が記事でも述べていますが、最初からニコニコの目的は生放送にコメントをつけることであったわけです。つまりニコニコ動画はその前段階のいわば踏み台でありました。
他の運営がどう考えていたのかはわかりませんが、少なくとも川上会長のほうはコミュニティ(場)ではなくメディア(媒介)を志向していたように思われます。その理由は記事でも述べられていますがメディアになった方が儲かるし、運営側でコントロールしやすいからに違いがありません。ここでいうメディアとは、送り手(投稿者、配信者)と受け手(視聴者)が主軸の形態という意味です。

そのためニコニコ動画でも生放送の開始、イベントの開催などメディア化の準備が着々と進められていきました。そしてコミュニティサイトではなくメディアになったのだとユーザーに大々的に告知されたのが、かの悪名高い『ニコニコ動画:Zero』です。それと同時にニコニコ動画はniconicoというサイト内の動画視聴サービスに格下げされました。つまりニコニコ動画は動画を中心としたコミュニティサイトではなくひとつの総合メディアサイトとなったのです。

niconicoになり、方針が変わったのだから当然サービスの内容も変わります。niconico以後の新サービスはいかに客を集められる送り手を産み出すかに焦点が絞られています(例えばブロマガやユーザーチャンネルなど)。以前まで行われてきたような『参加者』を産み出すような機能は全く追加されてきませんでした(唯一の良心であったニコるもサービス終了の憂き目にあいました)。

そしてサイトの様相が変われば、それを利用するユーザーの質も当然変化します。ユーザーの多くは『参加者』から『視聴者』にとって代わり、再生される動画や投稿される動画の傾向もその好みに沿ったものとなりました。具体的には実況動画の台頭などです。ユーザーの楽しむ対象が動画という場から動画そのものや投稿者に変わることで、動画そのもののクオリティや誰が動画を投稿したのかということが非常に重要になってきたのです。

ニコニコ動画の雰囲気は変わってしまったという話を時々目にしますがユーザーの年齢構成や視聴デバイス以前に、サイトの趣旨自体が大きく変わっているのだからそれも当然でしょう。

 

  • 10周年を迎えたニコニコ動画の今後

一応川上会長の弁を信じるとするなら、メディア化の方針は「動画の方に技術的負債が溜まりすぎて新機能を追加できなかったため仕方なく」ということになります。その技術的負債の解消に4年もかかってしまっているというのはこの際目をつぶるとして、先日ようやくHTML5プレーヤーがお披露目されました。今後本当に本来のニコニコ動画のコンセプトを重視していくのであれば、『参加者』を増やすような新機能がどんどん追加されていくことでしょう。

しかし、4年という歳月はあまりにも長く、その間に投稿者と視聴者の明確な分離が進んだ結果、『参加者』の存在は危機的な状況に陥っています。なんのテコ入れもされてこなかったので、コメント数が減少の一途を辿っているのは当然として、最近は日毎のマイリスト数やさらには動画投稿数までが減少しています。動画視聴サイトとしては再生数が伸びていればいいのかもしれませんが、コミュニティサイトとしてみるならそのコミュニケーションの最小単位であるコメントやマイリスが減少しているのは大変な危険信号です。
加えて、『参加者』が『視聴者』にとってかわったことでコメントの質も大きく変化しています。簡単にいえば動画上に表示せず、コメント欄で同期しながら眺めても全く問題がないようなコメントが大半となりました。コメントを齧っている人間としては、Zero以降の少し凝ったコメントをするようなユーザーの激減は非常に衝撃的なことでした。

ニコニコ動画にほとんど変革がない間も、外部の環境は大きく変化していきました。ユーザーが視聴するデバイスもPC中心から動画に参加するのが困難なスマホ中心へと変わり、またTwitterなどのSNSサイトの台頭もあります。ニコニコ動画上でコミュニケーションをとる必要が段々と薄まってきているわけです。
本来のコミュニティサイトとしての復調を目指すのであれば、こうした環境の中でいかに『参加者』を産み出す仕組みを構築し、動画を優良なコミュニケーションの場にすることができるかにかかっていると思います。

めでたく10周年という節目を迎えたニコニコ動画が、今後の10年で確固とした独自路線を築き上げるのか、それともどこにでもあるような面白味のないサイトとなってしまうのか、いちユーザーとして非常に興味深いところであります。

 

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